蝉しぐれ、甲虫の影。
小さな命が教えてくれる、
六本木の夏。
夏といえば、昆虫。真夏の空気を揺らす蝉の声や、夜の森に力強く現れるカブトムシの姿。それらは誰にとっても、子供時代の記憶を呼び覚ます懐かしい存在ではないでしょうか。昆虫は“夏の象徴”であり、私たちの生活に寄り添う小さな自然の使者でもあります。 今回の企画展は、そんな昆虫たちを通じて 、身近な自然や小さな命のきらめきに改めて目を向けるきっかけとなることを願い企画しました。夏のひととき、命の鼓動に耳を澄まし、子供の頃の感覚を思い出すように。心にも涼やかな風が吹く、夏にぴったりの展示を6名の作家の作品と共にお届けしました。

《ペーパークラフトアーティスト/大村洋二郎》
写真紙を使ってコラージュをつくり、それを面取り状に組み上げることで、平面と立体の両方の特性をあわせ持つ「多面化写真彫刻」という独自の技法を用いて制作。今回の展示では新作のツノゼミや、蝶、テントウムシといったモチーフを展示。ツノゼミの力強い造形の迫力。蝶の羽は光を受けて角度ごとに色彩を変え、ひらひらと舞う気配。テントウムシは丸みのあるフォルムと光沢感が愛らしく鮮やか。眺める位置や光の移ろいによって異なる表情を見せ、生き物たちの瞬間的な動きや存在感を想起させます。

《ガラス作家/芝崎由華》
私たちとは明らかに違う異質な体と想像の及ばない奇妙な動きをする蟲。ですが、しっかり観察してみるとそこには無限の造形美を感じることができます。この作品は鋳造技法によって生み出され、溶かしたガラスを型に流し込んで、冷却することで生まれる透明感や重なりが、蟲の曲線や翅の繊細さを際立たせます。今回展示されるのは、丸いガラスにのったコガネムシや、ガラスで象られたセミの幼虫。光を透かすと現れるガラス特有の輝きが、蟲が持つゾワっとした印象を和らげ、むしろ愛嬌のある存在として浮かび上がらせます。
《水墨家アーティスト/CHiNPAN》
「破壊と再生」をテーマに、伝統的な技法を大切にしながら、長年の試行錯誤から生まれた独自の墨を使い制作。立体や空間装飾、ボディペイントにも広がり、水墨表現の枠を柔らかく越えていきます。今回の展示は、豆額の「果無い標本」シリーズと掛け軸作品。「果無い」とは、“頼りなく、消えてなくなりやすい“儚い”という意味を含みます。昆虫モチーフを標本のように描き出しそこに「破壊と再生」を繰り返す命の循環を重ね合わせます。小さな豆額に収められた標本は、儚さの中に確かな存在感を宿し、掛け軸に広がる墨の表現は、静けさと力強さを感じさせます。

《陶器作家/陶蟲夏草》
いつまでが蟲でいつからが菌なのか。蟲から菌へ。死から生へ。土から陶へ。展示空間に並んだのは、ヤマトカブトムシ蛹の吊鉢やダンゴムシの一輪挿し、セミの幼虫の壁掛け。繊細なフォルムの作品は写実に生き物を模すのではなく、その背後にある循環や儚さまでも映し出しているよう。作品を前にすると、生と死は対立するものでなはなく、ひと続きの流れの中にあることを実感します。朽ちてゆくものの中から新たな命が芽吹き、また次の命を支えていく。自然界が繰り返す美しい営みを、まるで手のひらにのせて覗き込んでいるような感覚に包まれます。

《七宝作家/中嶋葉子》
七宝焼きの緻密さや、明治期を思わせないモダンな色表現。今回展示いただいたのは、コンパクトでしっとりと手に馴染む手鏡。細やかに描かれた翅の一枚一枚には、まるで命が宿っているかのような気配が漂い、美しく今にも飛び立ちそうな作品。七宝の色彩の深さや光の反射に思わず息を呑むほどで、同じ素材でありながらひとつひとつの表情が異なる豊かさに感動します。細やかな技術の積み重ねが、静かでありながら圧倒的な存在感を放つ。その魅力に触れるたび、七宝という表現の可能性と、時をかけてうまれる美の力強さに、心を深く打たれます。
《イラストレーター/みなみあすか》
虫に触れられるような作品を作りたいと思い、翅が動かせる「虫の翅立体カード」を主に日本にいる昆虫をモデルに制作。翅がふわりと動くたび、まるで小さな昆虫が目の前で生きているかのような驚きと楽しさがあります。光の角度や手の動きによって微妙に変わる翅の表情に、思わず目を奪われ、笑顔がこぼれます。一枚のカードでありながら、虫の息遣いや小さな命の存在感を感じられる。身近な自然への関心が想像力を豊かにしてくれます。
今回も多くの方にご来場いただき、また、在廊いただいた作家の方々と直接お話しできる機会もあり、大変賑やかな展示となりました。夏の光に包まれながら、作家たちの手仕事を通じて、小さな命の輝きや自然の営みを感じていただけたことと思います。子供の頃の好奇心を思い出し、虫の声や葉のざわめきに耳を澄ませながら、展示を楽しんでいただけたように感じております。

大村洋二郎
ペーパークラフトアーティスト
写真紙を使ってコラージュをつくり、それを面取り状に組み上げることで、
平面と立体の両方の特性をあわせ持つ「多面化写真彫刻」
という独自の技法を用いて制作。
心地のいい曲線美を大切に。
ガラスという美しい素材で、昆虫のキモチワルさに潜んだ
可愛らしさを表現。
水墨家
CHiNPAN
「破壊と再生」をテーマに、伝統的な技法を大切にしながら、
長年の試行錯誤から生まれた独自の墨を使い、
にじみや紙への染み込み、重力といった自然の力と対話するような表現を探求。
平面だけでなく、立体や空間装飾、ボディペイントにも広がる。
陶蟲夏草
陶器作家
蟲が苗床となって粘菌やキノコという異なる生を育む。
異なる属性間での連続性やその移ろいの不思議と曖昧さの魅力を
陶器と植物で表現している。
日本の七宝作家である並河靖之氏の作品展に足を運んだ際、
モダンな色表現、途方もない時間を要する制作工程に魅了され、七宝作家になることを決意。
以降、七宝焼が最も美しく見える表現やモチーフとは何か?自分の心が躍るか?
を意識しながら日々制作。
イラストレーター
みなみあすか
昆虫の水彩イラストを描く。
虫に触れられるような作品をつくりたいと思い、
翅が動かせる「虫の翅立体カード」を制作。主に日本にいる昆虫をモデルにしている。


